仲井戸麗市さんとのこと
“チャボさん”といつも呼んでいるけど、どうして“チャボさん”なのか聞けたのはほんの数年前の話。
“チャボさん”こと仲井戸麗市さんとの出会いは一方的ではあるけれど、今から15年前の日比谷野音。
1986年の夏。
僕はまだ怖い物知らずの気持ちだけ先走った新米のカメラマン。
チャボさんは当時他に追随を許さないロックバンド、R.C.サクセションのギタリスト。
そして僕は今思えば無謀にもギタリストを撮りたいと自分から立候補してチャボさん担当のカメラポジションにさせてもらったんだと思う。
当然、チャボさんには僕のような若いカメラマンなんか全然視野に入っていなかったんだと思うけど、
ステージ上のカメラマンはミュージシャンに接近するのでスタッフから紹介される。
初めての会話は、
チャボ:「よろしくね。」
と言って優しい笑顔で手を差し出してくれて握手を交わした。
林:「初めまして。よろしくお願いします。」
それが精一杯言えた言葉だった。
初めての印象はとても優しい柔らかい手の感触だった。
昨年チャボさんの30周年ビデオ「works」を制作する為に過去のR.C.時代の映像を見直した。
僕の記憶にはずっと鮮明にその当時の状況が残っているんだけど、あらためて映像を見直すと、
そこには確かにあのシーンが写っていた。
そこは日比谷野音のステージでのこと。
僕がカメラを持ってチャボさんに近づいていくと、チャボさんはボトルネックをカメラに向けて見せて演奏したんだ。「スカイ・パイロット」を。
その後数年カメラマンとして日比谷野音のステージを撮ってきた。
その当時は全然チャボさんがカメラが苦手だなんて思ってもいなかった。
だって写っているチャボさんはそんなことを微塵も感じさせない姿だったから。
再会は京都での“麗蘭”として。
その時も、まるで初対面のように
チャボ:「よろしくね。」
林:「・・・よろしくお願いします。」
そしてやっぱりとても柔らかい手の感触。
そして決定的となった思い出深いアメリカでのブルースの旅。
初のプロモーションビデオ「真冬の熱帯夜」の撮影。
それから「GLAD ALL OVER」で久しぶりに清志郎さんと一緒に日比谷野音のステージでの撮影。
その他いっぱい。
出会ってから今日まで僕とチャボさんの時間と距離がどんどん縮まっている気がする。
数々のツアー先で食事を一緒にさせてもらったり、電車や車で移動したり、公私ともにいろんな話をさせてもらったり。
でもいつも感じるのはチャボさんがステージに立ったとき、僕は距離を感じる。
近づけない距離感を感じる。
そしてそれは永遠に近づけない距離なんだと思う。
でもその距離感は僕にとってとても心地よい距離感だ。
林ワタル
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